ラビット歯科大宮 院長 川添規生先生インタビュー
訪問歯科で治療する先生がどのような人か分かるとホッとします。
少しでも訪問歯科の敷居を低くなるように、ラビット歯科大宮の院長先生にお話を伺いました。
「急患対応」後でお疲れのところ、インタビューに応じていただきました。
目次
1.急患即日対応の患者さんについて
―先生お疲れさまでした。本日の急患はどのような患者さんでしたか?
入れ歯の増歯(ぞうし)をした後に「痛みがある」ということで伺いました。
―ぞうし・・・歯を増やす、で増歯(ぞうし)・・・入れ歯の歯を増やすことが出来るんですか?
そうです。
今、歯科の材料や技術もだいぶ発達してきたので、歯を足して入れ歯で噛める範囲を増やせるようになりました。
今回の主訴(しゅそ:患者さんの訴え)は、今まで触れてなかったところに入れ歯が当たり痛いとのことでしたので急患対応をして、当たるところを削ってきました。
歯の頭の部分が砕けて歯ぐきに潜っていたので、根っこだけになった歯を押している状況でした。
―そんな状況もあるのですね。ちなみに、おいくつくらいの方ですか?
70代の方ですが、1人暮らしでご自分では歩けないのです。
電気を付けるのにも「そこにリモコンあるから押して」と仰っていました。
歯の治療も大切ですけれど、まずは食べることだと。
訪問対象の患者様はいっぱいお薬を飲まれています。
お薬だけでおなかいっぱいになっちゃうくらい、飲まれている方が多いです。
そういった方にも「まずは食べないと」とお伝えします。
2.先生について
―ご出身は?
東京の新宿御苑のそばで生まれて、18歳の時に吉祥寺に引っ越しました。
―歯科医師になった理由は?
私、もともと車とバイクが好きで、大学も工学部に行こうかと思っていました。
1980年代、中嶋 悟さんが8チャンネルで出ているF1を夜中ずっと見ていました。
Hondaの日本人スタッフがピットに行くのを見て、エンジニアに憧れたんです。
バイクも府中まで行って限定解除の免許までとるくらい好きです。
―限定解除の免許は何回で受かりましたか?
5回ですね。
今みたいに教習所で「ナナハン(バイクの750cc)」の免許は取れなかったので。
当時「カーグラフィック」という1010円する雑誌を立ち読みしていました。
ポルシェやフェラーリ特集の「オーナーさんの声コーナー」があると、
そのオーナーは歯医者さんやドクターだったんです。
キレイな奥さんがいて、フェラーリやポルシェに乗れるならこんなにいい職業ないなと思いました。(笑)
まあそれはさておき、細かい作業が好きだったこともあり歯科医師を目指しました。
―(笑)訪問歯科をやられて、どれくらいになるのですか?
14年目です。
―得意な治療は何ですか?
歯医者を始めて今年で20年目ですが、最初の2年間は口腔外科にいましたので口腔外科ですね。
3.歯がチョコンと乗っかっている?
―訪問先でのエピソードを教えてください。
とてもお父様思いの娘様がいらっしゃって・・・そのお父様は、入れ歯が合わなかったのです。
入れ歯を作るのに1か月半~2か月掛かるのですが「こんなに待たせてお父さんかわいそうと思わないの?」
と言われたことがありました。
歯型を取った後、噛み合わせを取るのですが「噛んでください」と言ってもしっかり噛めない患者様だったので、自分の人差し指をいれて「私の指を噛んでください」と言ったのです。
一か八かでしたが下からギュッと押し上げて、それを噛み合わせの型にして試し合わせをしたら・・・うまくいきました。
―ほっとしました。(汗)先生、身を挺しての治療ですね。
娘さんが「ああ、いい入れ歯でよかった」と。
そこから娘さんの態度が変わって「先生ありがとうございます」と言われた時は嬉しかったですね。
本当に一か八かの教科書通りのやり方ではないので「これ、失敗したらどうしようか」と思いました。
指を入れると噛まれることはよくあるので、それを利用したら反射的にガブって噛んでくださったんです。
―痛くなかったですか?
痛くはないですが、挟まれた感触はありました。
その後も予後(よご:治療後の経過)が良かったので、娘さんは急に優しくなってくださいました。
訪問対象の方は体力の低下が著しい方なので、ご家族の方にも納得してもらうのも訪問歯科の大事なポイントですね。
色々緊張する場面も多いので、髪の毛も抜けちゃいました・・・。(笑)
―(笑)先生、患者さんに人気あるのでは?
私、患者さんの話し相手だと思っています。
口の中を治すのも大事なのですが、特に独居の方は2~3日誰とも話さないという方もざらなので、話したくてしょうがない。
「今までヘルパーさんにセブンイレブンのカレーをお願いしていたけど、今日はファミリーマートで買ってきてもらったら、そのカレーがおいしかったのよ~」とおっしゃった方もいました。
たったそれだけでも嬉しくて、それを誰かに伝えたいみたいで。
「よかったですね~。どうしてベロがカレー色なのかが分かりました~。」という会話も生まれます。(笑)
―(笑)先生、ちゃんと話にオチがありますね。口腔外科出身とのことですが、訪問現場で歯を抜くニーズは結構ありますか?
あります。
お年を召せば歯周病も進みますので、歯がグラグラしてきますし、抜歯の対象になります。
飲んでいるお薬が多種多様なので、血をサラサラにする薬など抜歯をする時に危険なお薬もあります。
担当のお医者様にお手紙を送って許可を得てから抜きます。
ただ、歯ぐきにちょこんと乗っかっている状態なら、私は抜いちゃいます。
―歯がチョコンと乗っかっている状態になるのですね?????
そうなのです。
歯ぐきの下に「アゴの骨」があり、それが歯周病でだんだん溶けます。
本来は骨の中に歯が刺さっている状態ですが、歯ぐきが下がると骨も下がるので、歯がグラングランしてくるんです。
お年を召した方は、感覚も乏しくなるので「痛い」と感じないこともあります。
―本当は痛いと思わなきゃいけないのに、痛いと感じない?
そうなのです。
じゃあそれはどう発見されたかというと、ご家族が口腔ケアをした時や、施設に入所なさっている方はスタッフさんが「これ、グラグラして誤飲する可能性があるから、訪問歯科に頼んで抜いてもらおう」ということが結構多いのです。
歯が抜けて誤飲すると窒息の原因にもなるので・・・。
―抜けた歯を飲み込むということがある??!
あります。
無意識にベロで押したり、頬をしぼめたりする・・・グラグラしている歯の存在自体も分からなくなることもあります。
周りにいるスタッフやご家族が「誤飲すると危ないので抜いてください」という依頼は結構あります。
―「歯が乗っかっているだけ」というのは衝撃でした。
「対診(たいしん)」といってかかりつけの先生に許可を得てから抜くのが基本ですが、返事に約3週間かかるので、これまでの経験から「歯ぐきに乗っかっているだけで出血もそんなにしないだろう」いう場合は臨機応変に対応します。
歯が指でも抜けそうな方もいらっしゃいます。
ただ、人間の身体ってよくできているもので、残っているもの離さないという人間の機能が働くのです。
―すごいですね。
抜けそうでグラングランしていても1年持った方もいらっしゃいます。
ご本人様も「痛い」という感覚がないので、放置されていることが多いです。
痛い感覚がある方も「このままでいいから抜かないでください」という方もいらっしゃいます。
―歯を抜くって、結構一大決心だと思うんです。
「今日でお別れ」ね、とおっしゃる方がいます・・・フランク永井の歌じゃないんですけど。(笑)
石原裕次郎さんや美空ひばりさんやフランク永井さんの話をすると、結構喜ばれます。
私、昭和歌謡が好きなので、そういったところから話の突破口が開けます。
―(笑)懐かしい話をすれば、患者さんが心を開くのに時間が掛からないと思います。ほかの医院さんの入れ歯でも「合わないからと調整をお願い」という依頼は出来ますか?
はい大丈夫です。
―血が出る処置などの際、かかりつけのお医者さんおの手紙のやりとりは先生にお任せしていいですか?
はい、大丈夫です。
「こういう理由で抜歯が必要です。先生のご指導お願いします」と返信用の書類も一緒に送付し、必ず書面に残します。
―抜歯する時などに手紙を書く?
はい、書いています。
あとは治療で「キシロカイン」という劇薬を使うときにも書きます。
―「キシロカイン」は何に使う薬ですか?
麻酔の薬です、歯科麻酔の使用についてお医者様の許可を得るためのお手紙を書くこともあります。
―「抜歯」と「麻酔」がポイントなんですね。
お返事が来るまで2~3週間掛かるので、経験上大丈夫そうであればリスクを説明した上で処置します。
リスクをご説明すると、だいたい「今やってください、痛がっているから見ていられない」となります。
急患対応で「歯がグラグラなので痛い」の場合、患者さんのお痛みを取る処置を優先したいと思っています。
―歯を抜けば、痛みはなくなるのですか?
大体なくなります。
お口の中は歯医者しか分からないので、隠しちゃう先生もいます。
「ここ、上手く削れなかったのでお痛みが出る可能性もあります」という場合も、隠さないで正直にお伝えします。
隠すとそこからトラブルが起きます。
お口の中は小さいので、先生しか分からないのです。
―家族に「口の中を見てください」という先生、見たことないです。
長年経験し、編み出してきました・・・20年やっていますから。
自分も若い頃は見られたくなかったです・・・自分の作った入れ歯とか金属の詰め物とか。
ご家族様も見た方が安心だと思います、施設だったらスタッフの方にも見てもらいます。
当院のスタッフにも正直に話します。
―いい意味で、カッコつけないんですね。
カッコつけると、そこからトラブルが生じます。
正直に話すことによって気持ちも楽になります。
―脳梗塞の後遺症で、体が動かない患者さんもいると思うのですが。
半身麻痺の方は、治療のコツがないのが正直なところです。
お気持ち的にも沈んでいる方も多いので、自分をさらけ出すんです。
「今朝5時40分に起きて、ゴミ出ししてきたんですよ~」「昨日は帰りが遅くて、残り物しか食べてないんですよ~、○○さん今朝は何を食べました?」など話をすると敷居がだんだん下がって、お口が開かなくてもそこから開けてくださる方もいらっしゃいます。
それはそれで感動します。
―私も感動しました。
私の家内のおかげ、カカア天下の賜物です。(笑)
「重力とカミさんには逆らえない」です、どんな職場や家庭でも女性を敵に回しません。(笑)
月水土がゴミ出し・・・月曜がペットボトル、水曜と土曜が生ごみ、全部インプットされています。
4.プライベート&患者さんへのメッセージ
―休みの日は?
稼いだ給料を車に注ぎすぎて、このままだと家計が火の車になりそうで怖いので(笑)車は売却、今は無趣味です。
だから、土日はゴミ出し、風呂掃除、何でもやっています。
あとは、受験生である子供の勉強を見ています・・・「子供はどうやったら勉強するのかな?」と思って自分も一生懸命勉強したら私の方が頭良くなって・・・こないだもルートの計算とか、円周角とかの計算をしていました。
まあ、家族サービス、ですかね。(笑)
―患者さんやご家族様にメッセージお願いします。まだまだ訪問歯科はハードルが高いです。
「元気だった頃は定期的に歯医者さんに通っていたけど、通えなくなってあきらめた」という方=訪問歯科の存在を知らない方が多いですね。
当院も宣伝して、競争相手も多いですが、まだまだご存じない方が多いですね。
これをどうやって普及させるのか、広く一般に行き渡らせるのが難しい。
これも課題かなと思います。
ためしてガッテンで志の輔さんが宣伝してくれてたら、広まったかもしれませんね。
―NHKスペシャルで「訪問歯科の1日」とかやったらいいですよねえ。
お医者さんのテレビ取材は多いけれど、訪問歯科はなかなかないです。
「Dr.コトー診療所」のように、漫画になるといいですけれど。
訪問歯科では、様々な場面で柔軟に対応できることも大事なことだと思っています。
患者さんが「嫌だ」ということを、教科書通りに押し付けてはいけないと思っています。
当院は「無料歯科検診」という学校の歯科検診の訪問歯科バージョンがありますので、お気軽に連絡くださいね。
取材後記
先生は笑うことで人がリラックスすることを体感的に知ってらっしゃるのだと思います。
訪問した先で、クスッと笑っている患者さんやご家族の姿が目に浮かびました。
だから、面白おかしく話をなさるということを実感しました。
実際、取材現場も笑いの渦に包まれていました。(笑)
これからも患者さんやご家族の笑顔のため、先生一肌脱いで下さいね!
また、歯が「グラングラン」という表現は初めて聞き、そこまでの状況の口腔内を診ることを初めて知りました。
そして訪問歯科の現場は、先生のフレキシブルな判断で成り立っていると感じました。
「餅は餅屋、在宅での歯医者さんは訪問歯科」遠慮なくお世話になりたいなと思いました。